雑木は園芸種の庭木とは違い、いくつかの注意点があることをまず説明させて下さい。大きくは「日差し」と「土壌」について。

「日差し」が当たり過ぎないように適切にコントロールすることは、養分を作る葉っぱを長持ちさせたり、過度な光合成を避けることで成長スピードを抑制することにつながります。
「土壌」は、植物にとって最も重要な根を健全に保つためにその質が求められます。土の中で見ることができないということもあり、重要でありながら意外と劣悪環境になっていることが多いので注意が必要です。

この2つはどちらが欠けてしまっても雑木を上手に育てることはできません。その詳細についてしっかり押さえておきましょう。

1.「日差し」について

(1)雑木と園芸種の違い

 園芸種は庭で育てやすい特性にすることを目的に品種改良を重ねてきており、「庭」という人間が作り上げた環境に適応できています。
 それに対し雑木は、自然の山や森の中で生き延びるためにその環境に適合してきた植物です。この環境のギャップを配慮できていない庭では雑木に負担を与えてしまい徐々に弱ったり、雑木とは思えないような姿となったり、最期には枯れてしまう、もしくは手に負えないほど成長し過ぎたりして切り倒してしまうという結果になりかねません。
 そうならないために、雑木が元気に育つことができる環境を理解することから始めましょう。

(2)雑木の育つ環境とは?

 山道をドライブしたりトレッキングしたりするとき、山道脇に目を遣ると、本来の雑木の育っている環境を見ることができます。その木々の姿は多くの人を魅了する華奢で繊細な「山採り」そのもの。他の木々に負けまいと日差しを求め上へ上へと幹を伸ばし、やっと届いたわずかな日が当たる部分に葉っぱを広げ、効率良く光合成をして養分を得ています。
 幹の下側には枝を広げず、上空で細く伸びて面で葉っぱを広げる姿は木にとって合理的なのです。特に中低木に関してはいくら幹を伸ばしてもコナラなどの高木には届くことがなく、「木漏れ日」という「おこぼれ」で育っています。また先祖代々この環境で世代交代しているため、強い日光には順応しにくくなっています。

(3)日差しが雑木に優しくない理由

 南側の庭に、朝から夕方まで日が当たる環境に仮に1本山採りの木を植えたと想定ましょう。朝から夕方まで根、幹、葉にダイレクトに強い日差しが当たり続けることになりますよね。

 株元や幹は直射日光を嫌います。自然の環境では前述の通り、周囲の木に囲まれているために日が当たることはあまり無く、その温度上昇に順応できていないのです。葉っぱも中低木には日当たりが強すぎて、夏には葉からの蒸散量が根からの水分の供給量を越えてしまうために葉焼けを起こしてしまいます。

 ではどうすればいいか? 一言で言うと本来の環境に近付けてやればいいのです。同じ環境にすることは無理ですが、雑木にもある程度の環境適応力はあるので、その範囲内まで環境を近づけることが重要なのです。

(4)あなたの庭の環境は?

 あなたのお庭の環境は? 周囲のご近所の家やご自宅の建物でどの方角がどの程度直射日光を遮られるか?夏至の昼には太陽は78.4度の角度となるので、いくら周囲に家があってもあまり効果は期待できないでしょう。

 しかし西側に遮るものがあれば、太陽角度が下がる西日は避けられるかもしれません。
あとは遮光の不足分を建物以外で補う工夫が必要になります。

(5)自然の環境に近付ける方法

庭の南側の木の根や幹をフェンスで守る
特に南側は境界線付近の木の日光を遮るためには、いわゆるフェンスで遮光する方法がスペース的に効率的。間隔の詰まった、熱を持ちにくい木製フェンスか樹脂のフェンスがお勧めです。また、空気が通る隙間を作ることで病害虫の発生を抑制できます。

日差しに強い大きめの木を植えて影を作る
高木といわれる木は、根さえ守ってやれば比較的直射日光に耐えられる性質があるため、貴重な木漏れ日エリアを作ることができます。

密集配置で互いに守り合う
中木でも密接して植えれば、朝から夕方を通して見ると互いに直射日光を遮り合うことができます。

他の木々の陰になる場所に植える
前述の②、③により作れた木漏れ日を利用して、日差しを嫌う低木類を植えれば、ストレスなく育てることができます。

(6)最適な樹種の選定

日差しを遮る高木
・コナラ…高木の中ではやや小型。雑木の庭の代表格です。
・チャボヒバ…針葉樹。枝が広がりにくいのでフェンス手前に植えても越境しにくい上、日差しに耐えて木陰を作ってくれる。

密集配置に適した中木
このカテゴリは一番充実しています。代表的なもののみ紹介します。
・アオダモ…隣に高中木があり根への日光がある程度遮られていればれば、葉焼けすることなく華奢で繊細な枝を伸ばしてくれます。
・イロハモミジ…成長が早いのが難点。ある程度の日差しには耐えてくれますが、日の当たりにくい場所の方が繊細な姿を維持しやすいです。
・アカシデ…面を作るように葉っぱを広げてくれます。
・ソヨゴ…常緑樹の中では柔らかな雰囲気を持った貴重な存在。

比較的日差しに強い低木
どうしても低木を植えて遮光したいときに使えます。
・ハクサンボク
・ブルーベリー

日差しを避けたい木
魅力的な木が多いですが、木漏れ日の環境でしか育てることができません。
・常緑樹:ハイノキ、クロソヨゴ、ヒサカキなど
・落葉樹:クロモジ、シロモジ、オトコヨウゾメ、ミツバツツジなど

小さな雑木の庭には避けた方が良い木
・アラカシ、シラカシ、シマトネリコ
アラカシ、シラカシは昔から日除けで植えられ、シマトネリコは少し前までシンボルツリーとしてブームでした。どれも日差しに強いですが、成長が早くすぐに手に負えなくなるので、最初から植えない方が無難でしょう。

2.「土壌」について

 根は、土の中の空気から酸素を取り込んで呼吸をしていることは意外と知られていません。よく、「水持ちがよく水はけの良い土壌」という言葉を聞きませんか? 矛盾した言葉に聞こえますが、健全な根を保つためにはこの言葉をまず理解することが重要です。

 言い換えると、「水が土中に留まることなくすぐに地中に染みていき、且つ土の中の湿度は長時間維持できる土壌」ということだと私は理解しています。言い換えれば、水はけが悪いのはダメ、直ぐに土中が乾燥してしまってもダメだということ。

 ではそのような状態を具体的にどのように作るのか? 以下の3つがポイントから説明したいと思います。

(1)土づくり

 真砂土だけだと粒子が細かいため一度含んだ水分が地中に下がっていくのに時間がかかり、「水持ち」は良いのですが「水はけ」は良くありません。しかし赤玉土や鹿沼土、バーク、腐葉土、炭チップなどは、粒の中に水分を溜めることができる上、さらに粒と粒の間を縫って素早く水が通っていきます。この状態こそが、「水持ちがよく水はけの良い土壌」となります。

 ただしこれは理論上の理想的な状態であり、実際には真砂土をベースに赤玉土や鹿沼土、バーク、腐葉土、炭チップなどを混ぜ込む程度でも一定の効果はあり、根の生育に違いが出ます。

(2)排水対策

 「排水」と聞いてもピンとこないと思います。まずここで言う「排水」の意味を説明します。雑木の生育にとって、「根」が元気であることはとても重要。しかし根の大敵は過剰な「水」なのです。

 もちろん、適度な水分は必要ですが、水に浸かった状態が長時間続くと「根腐れ」と言って根の機能を失ってしまいます。窒息死してしまうようなものだと考えればわかりやすいかもしれません。庭が作られる住宅街の土壌環境は、宅地造成方法や元々のその地域の土質によって様々。雨が降った後、水たまりが簡単にできてしまうとか、シャベルで庭を掘ると水が染み出てくるような場合は地盤が粘土層である可能性があり、雑木を植えるには最悪な状態です。その場合は何かしら対策を取る必要があります。重要なポイントは、根っこが土の中で長時間水に浸かったような状態にしないこと。そのために2つの方法があります。

ユンボなどで50㎝ほどの土を漉き取って入れ替える

真砂土、赤玉土、鹿沼土、腐葉土かバーク等を混ぜた排水性の良い土に入れ替えます。ただし、土を入れ替えたところで掘った場所から排水できなければ意味がありません。そのために「暗渠」といって排水のパイプを埋める方法を取ったりします。
もしくは、オーガーという先端がスクリュー形状になった穴あけ道具で所々に空き缶ぐらいの径の穴を掘り、その中に竹や枯れ枝を入れて排水の助けをしてやります。

庭全体に傾斜を作り、木々を高植えする

粘土層の上に真砂土や腐葉土、赤土、鹿沼土などを混ぜた土を高く盛り、傾斜をつけて水を木々の根付近に滞留させない方法です。

どちらも大変な作業ですが、①はDIYでは普通はお手上げ、②であれば体力は要りますがDIY可能です。

③起伏を作る

 一般的に作庭前のグランドの高さは水平であり、当たり前と思われる価値観だと思いますが、雑木の庭では思い切った大きな起伏を作ると2つの良いことがあります。

 1つ目は水はけの改善ができること。起伏の頂点から傾斜部に植栽をすることで、過剰に降った雨水は時間とともに少しずつ根から離れた低い方へ向かって移動していきます。その先は雨水桝などに排水されるようにしてください。

 2つ目は視覚的なメリット。主題の「水はけ」からズレてしまいますが、庭を眺める立ち位置より奥を高くして手前を低くすると奥行き感が出る効果があります。
 ちなみに、自然の環境というのは起伏があるのが当たり前で、逆に起伏のない庭はどこか人工的な印象を受けてしまいます。私たちはその価値観を暗黙知の中で持っているのだと思います。作庭においては、このことを形式知として捉えることも大切だと思います。

 もうひとつ、その庭全体の傾斜面に対し前述の高植えも行うことで小さな起伏がいくつもできます。その高植えと高植えの間の谷間が水の通り道となることで更に根に雨水が滞留することを防ぎ、根腐れを防ぐことができるのです。谷間はそのままにせず、枯れ葉や枯れ枝、腐葉土を被せる(マルチング)ことで、土の流れを防ぐと同時に水が通りやすく・根が呼吸しやすい経路を作り上げることができます。

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