理想とするシンボルツリーの維持管理について(後半)

 シンボルツリーの維持管理について、前半では主に「育ちすぎて困っている」問題について触れました。後半ではもう一つのパターン「育たず困っている」についてお伝えします。

1.上手く育たず困っている

 このパターンは圧倒的に「雑木」が陥るパターンが多いですね。最近人気の「アオダモ」、「コハウチワカエデ」、「イロハモミジ」、「ヤマボウシ」、「ソヨゴ」、「シャラ」、「ツリバナ」、などなど。
 最初は木自体が持っている体力があり良い状態のように見えますが、年々枝枯れが進みやがて主幹上部が枯れ込んでしまい、シンボルツリーとしての風格を失ってしまいます。

(1)原因は植栽の環境!

①日当たり(特に夏場)

 シンボルツリーである以上、庭の一等地に植える人がほとんどではないでしょうか? 庭の一等地とは、建物の南側に面した庭の中で、外から・内からの視線を最も受ける場所。そのような場所は影ができにくく朝から夕方まで直射日光が当たる場所であることが大半です。しかし、大半の雑木はこのような過酷な環境では生きていくことは出来ません。もともと高木から低木まで多様な植物が密集する環境で育つ「雑木」は、特に幹や株元へ強烈な日差しが当たることに慣れていないのです。いきなり日差しがさんさんと降り注ぐビーチに放り出されるようなもの。

 植物なので一度植栽されてしまうとそこから動くことも声を上げることも出来ずその場でじっと耐えしのぎながら体力を削り取られ続け、最期は枯れてしまう訳です。「シンボルツリー」というワードでネット検索すると、多くの雑木が「お薦め」されています。あたかも問題なく華奢な感じの良い樹形を保ちながら育つかのように・・・。一部の高木を除き(シラカシ、アラカシ、クヌギ、コナラなど)、このような情報を鵜呑みにすると上述の困った状態に陥りますので、せめてネット記事で「西日を避けた方が良い」とか、「日陰でも育つ」と書いてある木は、シンボルツリーとしては不向きだと捉えるようにすると、失敗は少なくなるかと思います。

 ではどうすればよいか? 「雑木」ではなく庭木用に品種改良されたもの(ハナミズキなど)や海外の暖かい地域に自生するもの(ミモザ、オリーブなど)を選ぶか、「雑木」に合った植栽(密集、影を作る工夫)をすることです。この方法に関しては、こちらのページ(1.「日差し」について)で雑木の環境と植栽ポイントを紹介していますので、是非参考にしてください。

②土壌環境

もう一つ陥りがちなのが劣悪な土壌環境。その状態とは以下のようなものがあります。
・家屋建築時に庭の土が踏み固められている
・建築時のガラ等が混じってしまっている
・水はけの悪い粘土質の土壌

 植物を元気に育てるためには「根」がとても大切であり、そのためには「土壌環境」が重要です。一般的に「根」は、水やミネラルを吸い上げる機能があることは知られていますが、呼吸をしていることはあまり知られていません。植物は二酸化炭素を吸って酸素に変えるだけではなく、その酸素を根は取り込んでいるのです。土の中の「根」が呼吸をするためには土の中の粒子の間に空間が必要です。雨の日に水がその空間を通り地中に染み込んでいく過程で、地中の空気が入れ替わることが植物にとって大切なことなのです。しかし、上述のような状態では健全な「根」を育てることが出来ず、いわゆる「根腐れ」に至ってしまいます。

 土の中の状態は目で見て分かるものでは無いので雑に扱われがちな傾向があります。土をシャベルで掘っていったときに悪臭を放つ青みを帯びた灰色の土が出てきたら、それは植栽環境に合っていない土だと考えた方が良いでしょう。これは、土が腐った状態。いわゆる「グライ化」と呼ばれる現象です。
このような土の場合の対処法として、①土を漉き取って入れ替える ②高植えする 方法があります。①は大規模すぎてハードルが高すぎるのであれば、②の高植えをお勧めします。庭の高さより高めに植える方法であえて株を頂点に傾斜を付けます。根にも優しいし、起伏ができて見た目もより自然の雰囲気が出ます。 こちらのページ(2.「土壌」について) で詳しく紹介していますので是非ご覧ください。

 植栽をDIYしたり発注したりする私たちが知識を持つことで、このような失敗が少なくなることを願っています。

2.私の庭の変遷と失敗事例

 これより、自身の庭の変遷とシンボルツリーの失敗談をお伝えしたいと思います。この内容は前述の内容を裏付けるものとして、また時間の経過と共に変化する生活スタイルに合わせて庭に求めるものの変化とその姿を紹介したいと思います。

(1)マイホーム建築後の庭

 私がマイホームを建てたのは約20年ほど前、子どもがまだまだ小さかった頃。家の仕様については時間を掛けて考え抜いて決めてきましたが、建築が終わり庭は? となると疲弊状態であまりリサーチすることも無く「最低限のフェンスと芝生をDIYで貼る」といったシンプルなものにしました。
このとき庭に求めていたものは、「子どもが遊べるスペース」。芝生は丈夫なのである程度は踏まれてもOK、このときの自分たちにとっては合理的な庭でした。

(2)芝生の管理の苦しみ

 理想としていたゴルフ場のような緑一色の芝生の庭。しかし現実は厳しいもので緑の芝を管理することはとてもパワーが要ることでした。
 晩秋から春までのオフシーズン以外は、水遣りはもちろん芝刈りや雑草抜きは2週間に1度。芝刈りのスパンを長くすると徒長した芝を一気に切てしまうため葉っぱが枯れてしまったり、強烈な勢いで増える雑草の影響で部分的に芝生が食われてしまったり。また、コガネムシの幼虫に根を食い荒らされた部分が剥げてしまい新たな芝を貼り直したり。それでも芝生が綺麗に保たれないためエアレーションでボコボコ庭に穴を開けたり。炎天下の中のこのような作業はまさに苦行。綺麗な芝を得るために与えられている試練と思ってメンテを続けていました。

(3)生活してみて感じた不満と庭木の植栽の決意

家を建ててから3年ぐらい、子どもの遊び場と飼い始めた犬が遊びまわるスペースとして使っていました。しかし芝生だけの庭では少し殺風景。同じ時期に家を建てたご近所の方の影響を受けて我が家も植栽を考えました。当時から「雑木」のブームが始まっており植えた木は「ヤマボウシ4m」「エゴノキ2.5m」「ソヨゴ2m 2本」。すべて南側に面した庭で真夏に朝から夕方までガンガンに日が当たる環境でした。またこのときは認識なかったのですが、この地域の土壌は最悪。50㎝も掘ると粘土層が出てきて、水が染み出てきます。 それでも最初の1,2年は長く伸びた枝に見事な花を咲かせ「シンボルツリー」として緑あふれる空間を与えてくれました。

(4)衰弱する「庭木」

 ヤマボウシは夏に葉焼けを起こし、 徐々に枝枯れが進んでしまいました。また同時に株元から多くのヒコバエが生えてきたことが印象的です。庭木の本にはヒコバエは切った方が良いとあり、生えては切ってを繰り返していましたが、今思うと株元や幹を日差しから守ろうとヒコバエを生やし葉っぱを茂らすことで日陰を作ろうとしていたのだと確信しています。無知であることが必死に生きようとする木を追い込んでしまっていた訳です。
 そして植栽から10年が経ち、とうとう幹から完全に枯れてしまいました。
エゴノキはテッポウムシにやられ、植え替えたシャラの木もテッポウムシの被害に。本やネットでは丈夫だと書かれているソヨゴもあっけなく枯れる始末。
 植栽から10年のうち、良い状態が保たれたのは最初の2年ほど。以降はシンボルツリーとしての風格を感じられるようなものではありませんでした・・・

(5)そして「雑木の庭」に出会い、作庭を決意!

 このまま枯れた木を放置はできない・・・ しかし何を植えてもうまく育たない・・・ という複雑な思いを抱きながら、自分達にとってこれからどんな庭にしたら良いのかを調べ始めました。
 子どもは大きくなり、庭の遊べるスペースとしての役目を終えた。生活空間を落ち着きあるものにしたい。外からの視線を遮り管理が負担とならない、自分たち夫婦にとって「癒される庭」にしたいと考えるようになりました。そこから様々な庭を調べる過程で「雑木の庭」に出会いました。
 しかし「雑木の庭」と言ってもイロイロ。自分たちが過去失敗したような植栽も業者によっては「雑木の庭」と呼んでいるほど。そういう中で本格的な「雑木の庭」を作る庭師さんを見つけ、お話を伺ったり実際に作られた庭や写真を拝見し、作庭をお願いすることになり、現在に至っています。

3.まとめ

 シンボルツリーの維持管理には木の選定が大切。「雑木」よりも庭で育つように改良されてきた「庭木」や丈夫な洋木を選んだ方が失敗は少ないと思います。また、土壌環境も大切。庭の土壌を調べ、場合によっては改良するか植え方に工夫をすることが必要です。

 いろいろと失敗し、現在雑木の庭を管理している者として、「雑木のシンボルツリー」というのは有り得ないものではないか?という思いに行きつきました。前述の通り環境が合わないだけでなく、その魅力を発揮することはできないと思います。
 音楽に例えるなら、「雑木の庭」はオーケストラ。高・中・低木、下草、どれも主役ではないけれど、それらが組み合わさることで最高のポテンシャルを発揮するのです。

 そんな「雑木の庭」があなたが求める庭の選択肢の一つになれば嬉しく思います。